「店長、あの人だれですか?」とパートさんが聞くと
「社長だよ、知らなかった?」店長はやや焦ったように答え、パートさんに挨拶をするように促しました。
ところが、社長はあっというまに店からいなくなってしまいました。
このパートさん、昨日今日入った方ではなく、1か月近く働いていてくれたのに社長のことを知らなかったのです。
知らないのも無理はありません。この社長が店に来るのは1か月に1回程度、会議の時だけなのです。
社長の方針としては、社長自身が店に行かなくても、店の運営は店長や営業部長に職務を任せておけばいい、
会議で報告を受けていれば、店の状況はわかるから、それで指示をだせばいいと考えていました。
実はこの社長は2代目で、初代社長とは違った経営方針でした。
初代社長は、店にいつも入っていて社員と一緒に汗を流して、店を大きくしてきました。
2代目は多店舗化を目指しており、部下に仕事を任せなければ会社を大きくすることはできないと考えていたのです。
店に来ない社長は他業種との交流や勉強会には積極的に参加して、新たな経営戦略のヒントを得ようとしていました。繁盛店の視察にも出かけており、それ自体は素晴らしいことなのです。
しかし、店に来ないのは決して褒められたことではありません。
売上・利益の元となるのはお店です。
お店には改善すべき点、お客様の生の声など様々な情報があふれています。
店長が気付くこともありますが、常に同じ店にいると見えなくなってしまうこともあります。
社長だからこそ気付くこともたくさんあるはずです。
それが売上アップ、利益アップにもつながっていきます。
社長が店に行って、パートさん、アルバイトさんに声をかければ、スタッフは「期待されている、認められている」と意気に感じて、今まで以上の頑張りを見せてくれます。
ある民事再生を受けた会社の再建を任された社長が、業績回復の大きな要因の一つに、現場に行って、気軽に「ご苦労さん」と声をかけてスタッフとコミュニケーションをとったことをあげています。
直接そのときのことを社長に伺ってみると「声をかけることで心理的な距離が近くなり、現場の声を直接聞けたことが大きかった」と教えてくださいました。
部下に店の運営を任せることも大切ですが、社長自身が店に行き、店がどのような状態になっているのかを確認をすることはとても大切です。
会議での報告とデータだけでは、わからないことがたくさんあります。
社長が直接店に行き、スタッフとコミュニケーションをとることこそ、現場を大切にする、店舗力を高める経営ではないかと考えます。